医療情報は、いわゆる「情報の非対称性」(専門家と素人の情報ギャップが生じやすく、格差を縮めるのも容易ではないこと)が起こりやすい分野の情報です。
そして、特にインターネット上で真偽の不確かな情報が氾濫する現代において、医療機関を受診し処方された薬について、薬局で直接医療関係者から渡される「薬情」(いわゆる薬の説明書)は、患者さんにとって相対的にかなり信頼性の高い医療情報になるはずです。
一方で、その薬局の実力を示す重要なツールにもなるはずの「薬情」ですが、殆どの薬局がレセコンメーカーで準備された定型文(テンプレート)をそのまま利用しているのが現状のようです。
特に中小規模の薬局・グループでは、そもそも自己設定の方法がわからないと、あるがままにしている印刷しているケースも珍しくありません。(お薬手帳用のシールも、やたらと稀な副作用で多くのスペースを取っているシールをたまに見かけますが、これも考えものだと思います。)
薬情のテンプレート文をそのまま利用するメリット・デメリット
確かに、レセコンメーカーが準備している定型文を利用していれば、薬局サイドとしては手間がかからず、内容的にもほぼ不安なく利用でき便利です。また、言い方は良くありませんが、もし誤った情報が記載されていても、「責任回避」できる部分もあるでしょう。
一方で、レセコンで準備されている文章は、添付文書をもとに、どうしても「万人向け」の内容になりやすく、「使用上の注意」などもそのまま記載され、文面どおりだと内容が物足りなかったり、逆に一般人には判断・理解が難しい場合もあります。
また、副作用がかなり強調され記載されていた場合は、なんだが怖くて飲まなくなる人が現れたり、現在ではあまり一般的ではない注意点や効能が記載されていることがあります。(酸化マグネシウムが、現在その目的では殆ど処方されていない胃薬と記載されている等)
情報ギャップが生まれやすい内容は是非カスタマイズを
そして、特に患者さんと医療関係者との間で「情報ギャップ」が生じやすい点として、その副作用情報の頻度イメージがわかないというのがあります。
例えば日常生活において、自動車事故や航空機事故にあう頻度や天候による影響など、感覚として大凡の頻度感覚を把握していると思います。しかし、いわゆる薬の事故ともいえる副作用頻度について、通常一般の方は予備情報はなく、感覚としてわかりません。
例えば、酸化マグネシウム錠の薬情に「牛乳の過剰摂取を控えること」と書かれていることがあります。
医療関係者にとっては、高マグネシウム血症に関する内容で、寝たきりで腎機能も低下しているような高齢者など、一部のハイリスクの患者さん以外ではまず心配はないだろうと考えます。
しかしながら一般の方は当然そのリスク感覚がわかりませんので、健常者でも「便秘対策で飲んでいた牛乳は一緒だと良くないのかな」と思ってしまうことがあります。(特に心療内科では便秘する方も多いので工夫が必要でしょう)
他にも、アムロジピンのグレープフルーツジュースによる影響や、お茶による鉄剤吸収への影響など、現在、影響は相当少ないと考えられているような定型内容は、来局する患者層や処方医の考え方も確認しながら、敢えて載せないというものアリかと思います。
この辺りの情報ギャップが生まれやすい内容は、是非各薬局でカスタマイズを行い、過剰な心配を与えないように改良するべきでしょう。
(この辺は、「お薬110番」の記載内容が、エビデンス情報もわかりやすく併記したりなど工夫されており、非常に良くできていると思います。)
マンパワー不足の薬局はカスタマイズで業務改善も期待できる
また、一人薬剤師薬局では、状況により服薬指導に多く時間を費やせない場合がどうしてもあります。
そのような時に備え、ある程度決まりきった指導内容は薬情にしっかり載せて、個別的な対応に時間を割く方が、服薬指導全体の質が高まる可能性があります。(なお、薬歴記載の関係で否定的な薬局もあります)
特に整形外科や、眼科、皮膚科領域の外用薬は有効かと思います。(温シップの剥がすタイミングや効果持続時間、点眼薬の開封後の期限、1瓶で点眼できる回数など)
患者さんはメモするタイミングがない
他に、忘れてはいけない点として、服薬指導時に伝えたことが、必ずしも患者さんの頭に残りきるとは限らないという点です。
普段の仕事で、大抵の人が重要なことは「メモ」をするはずです。しかしながら、投薬時にメモを残すような患者さんは殆どいません。これはしたくても、できる雰囲気・体調ではないという理由も当然ありますので、是非しっかり伝えたい内容はこちら側でも配慮する必要があります。
まとめ
このように、今後地域内のナンバーワン薬局を目指したり、少ないマンパワーの中でより付加価値の高い服薬指導を提供するために、「薬情」のカスタマイズも検討してみるのも良いでしょう。
これによって、患者さんの満足度向上や業務の効率化に役立つかもしれません。
もちろん、実際にカスタマイズを行う場合は、一個人だけで文章を決めるのではなく、チームで複数の意見や、可能なら処方医の意見も取り入れながら決めるとより良いものになるはずです。
・定型的な服薬指導は、薬情に記載することで業務を効率化できる
・副作用情報については、過度の心配を与えない工夫を(リスクレベル記載など)
・特に一人薬剤師薬局では、業務改善に役立つ可能性大
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