今更ながら、電子お薬手帳を自身のスマホに導入してみました。
あまり期待はしていなかったのですが、導入さえしてしまえば、複数受診している人にとっては意外と便利かな、というのが率直な感想です。
特に忙しい社会人にとっては、次回予約日の把握や、手帳をわざわざ持ち歩く手間も省くので便利です。また処方箋をFAX同様に撮影して送ることができるのも、なにかと便利かもしれません。
但し、このような感想は、導入障壁がほとんど無い業界関係者の私の意見でしかありません。
本来、医療の主役である高齢者への普及は全然進んでいないのが現状です。また、システムを導入しているにも関わらず、薬局スタッフが普及に消極的なところもあります。
そこで、主に薬局サイドの観点から、その良い点、悪い点について所感をまとめてみました。
第3者のスマホは触りたくない
薬局サイドが消極的な理由の一番はこれでしょう。
様々な個人情報が詰まり、高額機器でもあるスマホを直接触りたくないのは、患者サイドはもちろんのこと、医療従事者側も一致した意見です。たとえ一時的でも、預かるとなると紛失や破損の心配もしなければなりません。
また、「(病院や薬局で)スマホを渡してから調子が悪くなった」「アプリをインストールしてから調子が悪い」などの、いわれのないクレームの恐れもあります。
さらに、第3者のスマホに触れることで指紋情報を抜かれる可能性も否定できません。20年前ならスパイ映画の世界だけのことでしたが、残念ながら現在では、他人事ではありません。
手帳アプリが乱立している
現在、お薬手帳アプリが乱立している状況で、いわゆるデファクトスタンダート(例:OSのウインドウズのように、高シェアでいつの間にか業界標準になること)が無い状態です。さらに、どのお薬手帳アプリもイマイチ利用者が増えている印象がありません。
そのため薬局サイドでも、使用しているアプリが、薄々消滅するのではと思っている方も多い気がします。そうなると、当然積極的にアピールする気にはなれないでしょう。
ランニングコストがかかる
電子お薬手帳の利用は、患者自体は基本的に無料で利用できますが、当然導入している薬局側は月々の利用料を支払っています。近年は調剤報酬が厳しくなっていると言っても、基本的には黒字企業が殆どの業態ですので、あまり費用対効果を意識して導入している所は多くないでしょうが、利用料に見合った効果があるかは疑問が残ります。
また、最近では「広告あり」の電子お薬手帳も登場しています。薬局側としては利用料がかからずに導入できるメリットがありますが、患者側の嫌悪感の恐れを考えると、あまりお勧めできるものではないでしょう。(個人的には広告でるような電子お薬手帳は絶対に嫌です)
お薬手帳を持ってこなくなる
電子お薬手帳を利用しているからと、従来型のお薬手帳を持ってこなくなるケースがあります。
アプリ会社側のセールストークとして、手帳を忘れても、PCから服用履歴が確認できるので代替になる(算定条件をクリアしている)という説明もありますが、いちいちそんなことをするのは面倒です。
また、他社のアプリを使っていた場合は確認のしようもありません。患者のスマホを覗きこなければ、結局薬局には何も情報が得られないことになります。
保険証orマイナンバー一体型に期待?
ある意味、国も推奨していた「電子お薬手帳」ですが、ここにきて「マイナンバー」と「保険証」を紐づけして、医療情報を電子化・一元管理する構想が持ち上がっています。また、地域によっては、医療情報共有ネットワーク(いわゆるクラウド化)も形成されていて、今後も普及することが見込まれています。
そうなれば、電子お薬手帳も、そちらのシステムに統合するのが自然の流れでしょう。
もしそうなってしまうと、従来型の電子お薬手帳は、当然その必要性を失うことになります。
補完的な使用はメリットは十分あり
ここまでデメリットばかりの内容になってしまいましたが、災害時の万一に備えて登録しておけることは確かに大きなメリットだと思います。
また、独居高齢者本人ではなく家族に登録してもらうと、通院状況や体調変化の気づきになるので、お互い安心感につながります。
このように、補完的な役割として使用すると、便利な面が多くあります。
まとめ
現状でのメリット、デメリットをまとめてみました。
従来のお薬手帳に代替として使用するのは無理がありますが、補完的に用いると様々なメリットがあります。
一方で、今後の医療情報ICT化政策の方向性が見えない状況では、わざわざコストをかけて「電子お薬手帳」の導入」するのは懸念材料も多く、コストの有無に関係なく「様子見」が妥当かと思われます。(一度始めると、辞めるのも色々面倒です)
今後「服薬フォロー」が義務化になれば再注目される期待はありますが、やはり高齢者中心の利用者では、「電子お薬手帳」の利便性は不透明です。
それよりも、従来型の紙ベースのお薬手帳により付加価値を持たせる余地はまだまだあると思っています。
お薬手帳の付加価値化については、また改めて記事にしたいと思います。
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