調剤薬局にキャッシュレス決算を導入するメリット・デメリット

薬局業務改善・効率化

この記事を書いている段階(2019.3)では、2019年10月からの消費増税は予定どおり行われる見込みです。

そして、この消費増税に対する景気対策と、オリンピック開催も踏まえたインバウント対策として、「キャッシュレス決済でのポイント還元」の実施も予定されています。

また、軽減税率対象のレジ導入に対する補助金支給も既に行われている中で、これを機にキャッシュレス決済の導入を検討している薬局も多いかと思います。

そこで、このキャッシュレス決済導入に関するメリット、デメリットを、(大手チェーンやドラック併設型ではなく)ほとんどキャッシュレス決済が導入されていない中小規模の薬局を想定し考えてみました。

キャッシュレス決算を導入するメリット

まず、メリットについて考えていきます。
なお、キャッシュレス決済による(利用者への)最大5%のポイント還元の詳細は、2019.2現在、まだ明らかになっていませんが、基本的に保険調剤はポイント還元の対象外と思った方がよいでしょう。(還元側の事務作業の煩雑さから、なし崩し的に適応になる可能性も否定できませんが)⇒(追記)保険調剤はポイント還元対象外です。

現金を扱わない分、会計時間が短くなる?

キャッシュレス決済の普及により、生産性を向上させることも政府の思惑の一つです。
その中でも、特に非接触型の交通系電子マネーは、お互い操作も簡単で煩わしさもなくメリットは大きいと思います。

調剤の場合は、総合病院の長期処方等を除けば、2000円以内の比較的少額な会計が大部分ですので、支払方法としての親和性も非常に高いでしょう。
↓楽天payホームページより

また、生物学的製剤や肝炎治療薬、抗がん剤などの高額医薬品の調剤の場合は、多額の現金を扱うよりもカードで支払った方がお互いスムーズかもしれません。

ポイントを求める患者の流出防止に

ドラックストアの調剤部門の好業績から予想できるように、カード決済ができないと、カード決済ができる調剤薬局への流出が起こり得ます。どの程度の影響かを定量的に調べることは難しいですが、継続の患者さんが1人でも流出すると、長い目でみると無視できない数字になります。
(実際には、他薬局では在庫が揃わないこともありポイント獲得以上に時間的損失のデメリットが大きいはずです。実は、単にポイントを求めることより、薬局とのコミュニケーションエラーによる流出の場合もありえます)

負担金不足時の対応が楽に。双方にメリット

慢性疾患で継続的に受診・来局する患者さんの場合、仮に負担金が不足していた時は、「ツケ払い」にして次回まとめて支払って頂くことは、割と良く行われていると思います。

しかしながら、次の受診・来局がなさそうな患者さんの場合、負担金が不足し、未納状態になってしまうとお互いストレスを感じることになります。医療提供側からみれば、ちゃんと払いに来てくれるかの不安になりますし、患者さん側からみれば、また払いにこなきゃならないのかと当然思うはずです。

そんな時、カード等でキャッシュレス決済ができればお互いにとってメリットになります。

現金取り扱いが減り、事務作業が楽になる?

これもキャッシュレス決済の導入による「生産性の向上」として良くいわれている点です。レジ締めの時に金額が合わないことがありますが、現金の取り扱いが減れば、その分事務作業が楽になる可能性があります。

なお、「薬局あるある」的な話題になってしまいますが、外出機会の少ない高齢者が、薬局での少額負担金に対し万札をだし、ある意味両替していると思われる場面も結構あります。特に年金支払日直後の数日は、1万円札で会計する高齢者が続出します。もちろん、無下にお断りすることもできませんが、この現象はキャッシュレス決済の普及とは関係なく続きそうな気がします。

キャッシュレス決算を導入するデメリット

次に、デメリットについても考えたいと思います。

サインやスマホ操作でレジ場の流れが悪くなる。

診療所や調剤薬局のレジスペースは一般的に最小限のスペースしかなく、しかも一昔前の薬局では、銭湯の番台のようなつくりで、投薬スペースと一緒になっている所も多いでしょう。ここでカードやQRコード決済を求められると、流れが悪くなる場合があります。

クレジットカードに関しては、コンビニやスーパー、高速道路の料金所など、サインレス決済が可能な所がありますが、基本的にはサインもしくは暗証番号入力が必要になるので、それにより流れが悪くなる恐れがあります。

また、QRコード決済については、コンビニのようなストアスキャン方式でなければ、店舗のQRコードを読み取ってスマホに購入金額を入力する作業等がありますので、現金に比べ、格段に流れが良くなるとは思えません。(むしろ現金より手間がかかります)

また、QRコード決済は乱立しており、それぞれの会社の仕様の違いから、慣れるまで混乱を生じる恐れがあります。特に機器やスマホ操作になれていない高齢事務スタッフしかいない場合は、特に注意が必要です。(年齢で差別してはいけませんが)

また、調剤による会計は基本的に10円単位以上なので、1円単位で会計が行われる他業種ほどの時間的メリットは受けられないという点も見落とせません。(なお、一般品を1円単位の値段設定をしている薬局がありますが、利益よりも10円単位の値段設定で会計時間を短縮させる方がメリットが大きいでしょう)

手数料で利益が少なくなる

当たり前ですが、キャッシュレス決済を行うと、店舗側は決済額に応じた手数料(3%~5%)を支払う形になり、当然同じ代金を頂いても、利益は減ることになります。(但し、保険でカバーされる分(9割、7割)は対象外のため、医療・調剤報酬全体に対する手数料率は相当低いです。実質1%ぐらいの感覚?)

もちろん、高額商品や高級料理を提供するお店であれば、販売機会の喪失を避ける事ができ、売上増で手数料以上のメリットを享受できる可能性があります。さらに客単価が向上するメリットもあります。

しかしながら、一般的な医療や調剤については、キャッシュレスだからと言って単価・頻度が上がるような性質のものではありません。
↓楽天payホームページより

自己負担割合変更時の事務作業増加?

保険調剤を行っている上で避けられないのが、自己負担額が後で変更になるケースがあることです。例えば、保険証の負担割合の変更の見落としや、精神疾患による自立支援適応による負担金の減額などがあります。特に自立支援の適応になると、数か月前まで遡って再度負担金を計算しなおす場合があります。

この場合は、既にキャッシュレス決済していると、むしろ会計処理がややこしくなり、事務作業が増えてしまう恐れがあります。(但し、実際には顧問税理士さんに後は丸投げかもしれませんが)

「医療提供機関・かかりつけ薬局」としてのイメージが低下する?

薬機法上、一応薬局は「医療提供機関」と定められています。

その為、店頭において、あまりにキャッシュレス決済の利便性や、ポイント還元を前面に打ち出すと、どちらかというと「小売業」的なイメージがつきやすくなります。

基本的に失うものがないドラックストア併設型の調剤薬局なら、新規顧客獲得の便利なツールになるかもしれません。しかしながら、地域のインフラとしても機能しているかかりつけ的な薬局で「キャッシュレス決済でポイント還元」みたいに謳ってしまうと、正直なところ「医療提供機関」としてのイメージが悪化する恐れがあります。

そうなると、高度医療提供とは程遠く「かかりつけ薬局」としてのイメージが低下し、患者さんの家族から「在宅対応」を任せられるのか?施設職員からは、施設の薬の管理を任せて大丈夫だろうか?といったイメージを抱かせてしまうかもしれません。

キャッシュレス決済自体は時代の流れで普及していくことは間違いないでしょうが、「ポイント還元」等の宣伝を派手にやると、この業界ではマイナスイメージに働くリスクも押さえておきましょう。

じゃあ、どうすれば良いの?

じゃあ、どうしたらいいの?ということになりますが、結局のところ一概に判断できることではなく、各薬局の患者層や状況によりメリット、デメリットを判断し、導入の可否を決めるしかありません。

しかしながら、全国の薬局の大部分を占めるマンツーマン型の一人薬剤師薬局では、中途半端に業務が煩雑化する恐れもあり、時期尚早と判断されるところが多いと推測されます。

安易に導入してしまうと、やめるに辞めれないことになりますので、慎重に検討した方がいいでしょう。
(「電子お薬手帳」の会社も乱立しましたが、早期に導入して後悔しているところも多いはず)

それでも、やはりこのタイミングで導入したいとい方向けに、例として、スターバックスコーヒー(スタバ)を挙げたいと思います。

スターバックス店内の黒と緑を基調とした清潔感・落着きのある雰囲気は皆さんご存知だと思います。そしてレジまわりも整然としています。交通系マネーの端末はすぐに気付きますが、クレジットカードのブランドステッカーが貼られていないため、実はあまりカードが使えることが知られていません。しかしながら、スタバでは基本的に全店舗でクレジットカードが使えます。(しかもほとんどサインレス)
詳しい理由はわかりませんが、スタバはレジ回転が良くなっても、コーヒーを淹れるまで更に待つことになりますし、手数料的にも積極的な利用は期待していないのかもしれません。それでも、いざ手持ちがないときにコーヒーを飲みたい方には助かるはずです。

このように、あえて積極的に告知せずに、サービスの一貫として提供する方法もアリかと思います。

その他にも、単に売上目的以外のキャシュレス導入のメリットにも触れておきたいと思います。

一般にこの業界は、普段の業務について、あまりお互いの意見を出し合うようなことが少ない業種です。
そこで「キャッシュレス決済導入」という目標を、社内・局内で共有し議論することで、組織内の一体感を高めたり、チームワークを促進する効果も期待できます。また、チームリーダーを決めて意見をまめてもらうのも、人材教育の一つとして良いかもしれません。このように、課題として取り組むことで、組織の活性化に役立つ可能性があります。(決して経営者のトップダウンで決めない方が良いでしょう)

最後にまとめ。

・楽天ペイやAirpayのような多くの決済方法に対応できるサービスを利用する。
・交通系マネー決済はメリットの方が大きいと判断できれば積極的に活用。
・カードやQR決済は希望者のみに対応し、積極的な告知は行わないのもアリ?
・QR決済は乱立状態。安易に沢山のサービスに手を出さないように。
・キャッシュレス決済に対応できる事務スタッフの有無も重要。
・一度サービスを始めると、簡単に辞めれないので、利用開始決定は慎重に

なお、キャッシュレス決済への決断も、キャッシュレス特需による機材の納品の遅れ等を考慮して、2019年3月いっぱいには導入可否を決定し、半年ぐらいの余裕をもって準備した方がが良いでしょう。

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